感情コントロールのトレーニング法とは?論文を元に解説
記事更新日:2024年8月30日私たちの日常生活において、感情をうまくコントロールすることは非常に重要です。喜び、悲しみ、怒り、不安など、さまざまな感情を適切に調整できることで、人間関係を円滑にし、精神的な健康を保つことができます。しかし、多くの人にとって感情のコントロールは容易ではありません。特にストレスの多い現代社会では、感情の波に翻弄されてしまうことも少なくありません。
そこで本記事では、感情コントロールのトレーニング法について、心理学の研究論文を元に詳しく解説していきます。効果的な感情コントロールの方法や、自動的な感情コントロールのメカニズムなど、最新の知見をわかりやすくお伝えします。日々の生活の中で実践できるトレーニング法も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
感情コントロールの重要性
まず、なぜ感情コントロールが重要なのかについて考えてみましょう。感情をうまくコントロールできることには、いくつかの重要なメリットがあります。
円滑なコミュニケーションが取れる
感情的になりすぎず、落ち着いて会話ができる人は、周囲から好印象を持たれやすいものです。逆に、すぐに怒ったり不機嫌になったりする人とは、関わりたくないと思われがちです。感情をコントロールすることで、相手の気持ちを考えながら適切なコミュニケーションを取ることができます。
良好な人間関係
感情的な言動は、しばしば人間関係にひびを入れてしまいます。一時の感情で言ってしまった言葉が、長年の友情を壊してしまうこともあります。感情をうまくコントロールできれば、周囲の人々と良好な関係を維持しやすくなります。職場や家庭、友人関係など、あらゆる場面で人間関係が充実することで、精神的な健康も保ちやすくなります。
冷静な判断ができる
感情の波に振り回されると、冷静な判断ができなくなってしまいます。イライラや不安が募ると、些細なことでもストレスを感じやすくなります。一方、感情をコントロールできれば、多少の困難があっても心の安定を保つことができます。自分の感情と上手に付き合うことで、精神的な健康を維持しやすくなるのです。
効果的な感情コントロールの方法
それでは、効果的な感情コントロール法について見ていきましょう。ここでは論文を基にテクニックについて解説します。
認知的再評価法
感情コントロールの代表的な方法として、「認知的再評価法」があります。これは、感情を引き起こす状況や出来事の解釈を変えることで、感情そのものを調整する方法です。
例えば、試験に失敗して落ち込んでいる場合を考えてみましょう。「自分はダメな人間だ」と否定的に考えるのではなく、「今回は結果が出なかったが、次に向けての良い経験になった」と前向きに捉え直すのです。このように状況の解釈を変えることで、ネガティブな感情を和らげることができます。
認知的再評価法の効果は、多くの研究で実証されています。Gross
& John
(2007)の研究では、日常的に認知的再評価を行う傾向が高い人ほど、感情との折り合いをつけるのが上手であることが一貫して示されました。また、脳科学の研究からも、認知的再評価を行うことで、感情を司る脳の部位の活動が抑えられることがわかっています。
認知的再評価法を日常生活で実践するには、次のようなステップを意識するとよいでしょう。まず、感情が起こった状況を客観的に観察します。次に、その状況に対する自分の解釈を認識します。そして、別の視点から状況を捉え直し、新しい解釈に基づいて感情を調整するのです。
例えば、仕事でミスをして上司に叱られた場合、「自分は無能だ」と考えるのではなく、「これは成長のチャンスだ」と捉え直すのです。こうした練習を重ねることで、徐々に感情をコントロールする力が身についていきます。
注意転換法
もう一つの効果的な感情コントロール法として、「注意転換法」があります。これは、ネガティブな感情を引き起こす対象から注意をそらし、別のものに焦点を当てる方法です。
例えば、悲しい出来事があって気分が落ち込んでいるとき、その出来事について考え続けるのではなく、趣味の活動に没頭したり、友人と楽しい会話をしたりすることで、気分を切り替えるのです。
注意転換法の効果も、多くの研究で示されています。Van
Dillen & Koole
(2007)の研究では、ネガティブな感情を喚起させた後に計算問題を解くと、感情が和らぐことが明らかになりました。また、Holmes et al.
(2009)は、ショッキングな映像を見せた後にコンピューターゲームをさせることで、その後の不快な記憶の想起が減少することを示しました。
注意転換法を実践する際は、次のようなことを心がけるとよいでしょう。ネガティブな感情に気づいたら、意識的に注意を向ける対象を変えます。没頭できる活動や楽しい思い出に意識を向けたり、五感を使って今この瞬間の体験に集中したりします。深呼吸や軽い運動など、身体的な活動も取り入れるのも効果的です。
例えば、仕事のストレスで頭がいっぱいになったときは、意識的に趣味の本を読んだり、音楽を聴いたりして気分転換を図るのです。このような練習を重ねることで、感情に振り回されにくくなっていきます。
自動的な感情コントロールのメカニズム
ここまで、意識的な感情コントロールの方法を見てきました。しかし、私たちの感情コントロールの多くは、実は無意識のうちに行われています。こうした「自動的感情制御」のメカニズムについても、近年研究が進んでいます。
無意識の感情コントロール
Mauss et al.
(2007)の研究では、感情制御に関連する言葉(例:「抑制する」「落ち着く」など)を無意識のうちに見せることで、その後の怒りの感情が抑えられることが示されました。これは、感情コントロールの目標が無意識的に活性化され、自動的に感情が調整されたと考えられています。
また、Koole
& Jostmann
(2004)は、ストレス状況下での感情反応が個人の性格特性によって異なることを明らかにしました。行動志向性の高い人(感情や自分をコントロールを効率的に実行できる性質)は、ストレス状況でも自動的に感情を制御しやすいことがわかりました。
これらの研究は、私たちの中に感情を自動的に調整するメカニズムが備わっていることを示唆しています。
日常生活で取り入れるには?
日常生活の中で、このような自動的な感情コントロールを促進するには、次のようなことが有効かもしれません。
まず、感情コントロールに関連する言葉や概念に日頃から触れるようにしましょう。「冷静」「落ち着き」といった言葉を意識的に使ったり、目にする機会を増やしたりするのです。次に、感情をコントロールできた経験を意識的に思い出すことも大切です。成功体験を振り返ることで、自信を持って感情に向き合えるようになります。
さらに、リラックスした状態や前向きな気分をイメージする練習も効果的です。瞑想やマインドフルネスの手法を取り入れて、穏やかな心の状態を日常的に体験することで、自動的な感情コントロール能力が高まっていく可能性があります。
こうした取り組みを続けることで、徐々に自動的な感情コントロール能力が高まっていく可能性があります。毎日の生活の中で、少しずつ実践してみてはいかがでしょうか。
感情コントロールの個人差
感情のコントロールしやすさには、個人差があることが知られています。では、感情をうまくコントロールできる人とそうでない人には、どのような特徴の違いがあるのでしょうか。
感情をコントロールしにくい人の特徴
まず、感情をコントロールしにくい人の特徴について見ていきましょう。一つ目の特徴として、怒りの感情をコントロールすることが特に難しい傾向があります。怒りは生物学的な反応に根ざした感情であり、完全に抑制することは困難です。しかし、怒りを適切に表現できないと、人間関係に悪影響を及ぼしかねません。
二つ目の特徴は、ホルモンバランスの乱れです。不規則な生活や過度のストレスは、ホルモンバランスを崩す原因となり、結果として感情の波が大きくなってしまいます。特に女性の場合、月経周期によってホルモンバランスが変動するため、感情の起伏が大きくなる時期があることも知られています。
三つ目は、ストレスや悩みを抱え込みすぎていることです。普段なら我慢できるようなことでも、ストレスが溜まっていると感情が爆発しやすくなります。日頃からストレス解消法を持ち、悩みを一人で抱え込まないことが大切です。
感情をコントロールが上手な人の特徴
一方、感情をうまくコントロールできる人には、次のような特徴が見られます。
・自分を客観視する
まず、自分の感情をよく理解していることです。どのような状況でどんな感情が湧き上がるのか、自分の感情のパターンを把握していることで、適切な対処ができます。例えば、特定の状況で怒りを感じやすいことを知っていれば、事前に心の準備をしたり、その状況を避けたりすることができます。
・70点でOKと考える
完璧主義にとらわれすぎると、小さな失敗でも許せなくなり、ストレスが溜まりやすくなります。適度に妥協することで、感情の波を小さく保つことができます。「これくらいでいいか」と自分に言い聞かせる習慣を持つことが、感情コントロールには効果的です。
・他人を思いやる
自分の考えや価値観を押し付けるのではなく、相手の立場に立って考えることで、不必要な感情の衝突を避けることができます。共感性を高めることは、円滑な人間関係を築く上でも、自分の感情を安定させる上でも重要です。
これらの特徴は、決して生まれつきのものではありません。意識的な練習を重ねることで、誰でも身につけることができるのです。自分の感情パターンを知り、適度な妥協を心がけ、他者への思いやりを育むことで、徐々に感情コントロール能力を高めていくことができるでしょう。
日常生活での感情コントロール練習法
ここまで、感情コントロールの重要性や効果的な方法について見てきました。では、具体的に日常生活の中でどのように練習していけばよいのでしょうか。以下に、実践的なトレーニング法をいくつか紹介します。
アンガーマネジメント
まず、「6秒ルール」を意識的に実践することをおすすめします。怒りや苛立ちを感じたとき、すぐに反応するのではなく、一呼吸置くことが大切です。一般的に、怒りの感情のピークは約6秒間だと言われています。深呼吸をしながらゆっくり6秒数えることで、怒りの感情が自然と和らいでいくのを感じられるでしょう。これは、一般的にはアンガーマネジメントと呼ばれる方法です。
この「6秒ルール」を意識的に実践することで、感情的な行動を抑制する習慣が身についていきます。職場でのトラブルや家庭での口論など、日常のさまざまな場面で活用できるテクニックです。例えば、部下の失敗に腹を立てそうになったとき、すぐに叱責するのではなく、まず6秒間深呼吸をしてみましょう。そうすることで、より冷静に状況を判断し、適切な対応を取ることができるようになります。
怒る価値があるか?と考える
次に、感情的になりそうなときは、その状況が本当に怒る価値があるものなのかを冷静に考えてみましょう。多くの場合、怒ることで状況が改善されるわけではありません。例えば、交通渋滞で苛立っても何も変わりませんし、むしろ自分の気分を悪くするだけです。
一方で、部下の度重なる遅刻など、注意が必要な場面もあります。しかし、そのような場合でも「怒る」のではなく「冷静に注意する」ことが効果的です。怒る前に「この状況で怒ることに意味があるか」と自問することで、感情的な反応を抑制しやすくなります。
例えば、友人との約束に遅刻した相手に対して怒りを感じたとき、「怒ることで相手は改善するだろうか」「怒ることで自分の気分は良くなるだろうか」と考えてみましょう。多くの場合、冷静に理由を聞き、今後の対策を話し合うほうが建設的です。
感情日記をつける
また、日々の感情の動きを記録する「感情日記」をつけることも効果的です。毎日、その日に感じた感情とその原因、どのように対処したかを簡単に書き留めるのです。これにより、自分の感情パターンや感情の引き金となる要因を把握しやすくなります。
例えば、「今日は朝から気分が悪かった。原因は昨夜の睡眠不足だと思う。午後からは意識的に深呼吸を心がけたら、少し落ち着いた」といった具合に記録します。このような振り返りを続けることで、自分の感情の傾向や効果的な対処法が見えてくるでしょう。
リラクゼーション法
さらに、リラックス法や瞑想も、感情コントロールに役立ちます。例えば、毎日5分間、静かな場所で目を閉じて呼吸に集中する練習をしてみましょう。これにより、日常的にストレスを軽減し、感情の波を小さく保つことができます。
始めは難しく感じるかもしれませんが、毎日少しずつ実践することが大切です。例えば、朝起きてすぐ、あるいは寝る前の5分間を瞑想の時間として習慣化するのもよいでしょう。
また、運動も感情コントロールに効果的です。ウォーキングやジョギング、ヨガなど、自分に合った運動を定期的に行うことで、ストレス解消やエンドルフィンの分泌促進につながります。例えば、イライラしたときに10分間の散歩をするだけでも、気分が変わることがあります。
自分の感情を言葉にする
加えて、自分の感情を言語化する練習も大切です。感情的になったとき、「今の自分はどんな感情を感じているのか」を具体的な言葉で表現してみましょう。「怒っている」「悲しい」といった大まかな表現ではなく、「焦っている」「不安を感じている」「失望している」など、より細かく自分の感情を捉えることで、感情への理解が深まり、適切な対処がしやすくなります。
例えば、上司の指摘に対して「怒り」を感じたと思った場合でも、よく考えてみると「自分の努力が認められていないという失望感」や「能力不足を指摘されたことへの不安」かもしれません。感情を正確に言語化することで、より適切な対応が取れるようになるのです。
イメージトレーニングを行う
また、感情のコントロールが難しい場面を想像し、その対処法をイメージトレーニングすることも効果的です。例えば、苦手な人との会話や、プレゼンテーションの失敗など、感情的になりやすい状況を想像し、そのときにどのように対応するかをシミュレーションするのです。
このトレーニングを通じて、実際の場面に遭遇したときにも冷静に対応できるようになります。例えば、「苦手な同僚からの批判を受けたとき、まず深呼吸をして6秒数え、相手の意見に耳を傾ける」といったシナリオを頭の中で練習しておくのです。
これらの練習法は、一朝一夕で効果が現れるものではありません。しかし、日々の積み重ねが、やがて大きな変化をもたらします。焦らず、自分のペースで継続的に取り組むことが大切です。
感情コントロールが人生に与える影響
ここまで、感情コントロールの重要性とそのトレーニング法について見てきました。では、感情をうまくコントロールできるようになると、私たちの人生にどのような影響があるのでしょうか。
仕事面での成功
感情をコントロールできる人は、ストレスの多い職場環境でも冷静に対応でき、より効率的に業務をこなすことができます。また、同僚や上司との良好な関係を築きやすく、チームワークを重視する現代の職場環境において大きな強みとなります。
例えば、締め切りに追われるプロジェクトでも、パニックになるのではなく冷静に優先順位をつけて対応できるでしょう。また、意見の対立があっても感情的にならず、建設的な議論を行うことができます。こうした能力は、昇進や評価にもつながりやすいのです。
人間関係の質が上がる
感情をコントロールできる人は、他人の感情にも敏感で、適切な共感を示すことができます。これにより、友人関係や家族関係がより深まり、豊かなものになっていきます。また、新しい人間関係を築く際にも、相手に好印象を与えやすくなります。
例えば、パートナーとの口論の際も、感情的にならずに相手の気持ちを理解しようと努めることで、より建設的な話し合いができるでしょう。また、初対面の人とも、相手の感情に配慮しながら会話を進めることで、スムーズに関係を構築できます。
精神的な健康の向上
さらに、精神的な健康が向上します。感情をうまくコントロールできる人は、ストレスに強く、うつや不安障害などのメンタルヘルスの問題に陥りにくいことが研究で示されています。ネガティブな感情に振り回されることが少なくなるため、より充実した日々を過ごせるようになるのです。
例えば、仕事や人間関係でトラブルがあっても、それを客観的に捉え、適切に対処することができます。失敗や挫折を経験しても、それを成長の機会として前向きに捉えられるようになるでしょう。
自己実現につながる
感情をコントロールできる人は、長期的な目標に向かって着実に努力を積み重ねることができます。一時的な感情に左右されず、自分の価値観や目標に基づいて行動できるため、より充実した人生を送ることができるのです。
例えば、新しいスキルの習得や資格の取得など、時間のかかる目標でも、感情的な浮き沈みに左右されず、コツコツと努力を続けることができます。また、自分の夢や理想の実現に向けて、長期的な視点で計画を立て、実行することができるでしょう。
まとめ
このように、感情コントロール能力を高めることは、私たちの人生の質を大きく向上させる可能性を秘めています。仕事、人間関係、精神的健康、自己実現など、さまざまな面でポジティブな影響をもたらすのです。本記事で紹介したトレーニング法を日々の生活に取り入れ、少しずつ実践していくことで、感情コントロールの達人になれるはずです。そして、よりバランスの取れた、充実した人生を送ることができるでしょう。感情コントロール法を身につけることは、決して楽なものではありませんが、その先には大きな報酬が待っています。ぜひ、今日から一歩を踏み出してみてください。
- 通信講座のSARAスクール編集部
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心理カウンセラー資格やリンパケアセラピスト等の体系資格、食育資格などを扱うSARAスクール編集部が運営するコラムです。主に女性向けのキャリアアップやスキル習得を目的とした講座が多く、家事や育児と両立しながら学べる環境が整っています。資格取得を目的とした講座も充実しており、仕事や日常生活に活かすことが可能です。