臨床心理士とは?資格の取り方や仕事内容をわかりやすく解説
記事更新日:2024年9月26日臨床心理士は心理学系の専門職で、教育機関をはじめ、医療や司法など幅広く活躍できる仕事です。
「心理学を勉強してみたい」「カウンセラーになりたい」など考えている人は、臨床心理士という職業について聞いたことがあるかもしれません。 しかし、どうすれば臨床心理士になれるのかは、知らない人が多いでしょう。
そこでこの記事では、臨床心理士とはどのような仕事なのか、資格を取得する方法についてもくわしく解説します。これから臨床心理士をめざす人は、ぜひ参考にしてください。
また、臨床心理士は難しいけれど、心理学やカウンセリングに関する仕事をしてみたいという人に向けて、心理学系の資格もご紹介します。
目次
臨床心理士とは
臨床心理士とは、心の問題に向き合う専門家でのことをいいます。
臨床心理学による知識や技術によって、心が抱えるさまざまな困りごとの解決につなげます。
カウンセリングをする相手の価値観を尊重しながら、自己実現していくためのお手伝いをするのが、臨床心理士の仕事です。心理カウンセラー資格はこちら
心のケアをする専門家
心のケアをする専門家である臨床心理士は、どこで仕事をしているのでしょうか。
臨床心理士を見かけたことがない人も、実は、身近に存在しているかもしれません。
臨床心理士を見かけないのは、スクールカウンセラーや心理相談員など、勤務先が決めた呼び方が使われることが多いためです。
臨床心理士と公認心理師との違い
公認心理師は、2017年に新設された資格です。臨床心理士と公認心理師は、資格の種類が異なります。
臨床心理士が民間の資格であるのに対し、公認心理師は国家資格です。
それまでは心理学系の代表的な資格が臨床心理士でしたが、公認心理師ができたことで、医療分野では棲み分けの傾向が現れています。
医療分野では、臨床心理士が「臨床心理技術者」として診療報酬の加算対象となっていました。
しかし、2018年からは、加算対象となるのは公認心理師限定となったのです。
医療分野のほかは、臨床心理士と公認心理師との大きな違いは見られません。
求人も「臨床心理士または公認心理師」と併記されることが多いです。
臨床心理士の将来性
資格を取得しても、職業として活かせなければムダになってしまいます。臨床心理士の将来性について、不安に思う人もいるでしょう。
臨床心理士が必要とされる場は、最初は医療機関の小児科や精神科、企業のメンタルヘルスに関する相談室など、限られていました。
それから少しずつ活躍の場が広がり、現在では教育や福祉、司法など大きく広がっています。
現代はストレス社会といわれるように、心に不安や悩みを抱えている人が急速に増えているのが現状です。
ひとりで解決することが難しい人が多く、専門的な知識や技術を持った臨床心理士が必要とされています。
このことからも、臨床心理士は、将来性がある仕事といえるでしょう。
臨床心理士の仕事内容
臨床心理士の仕事は、カウンセリングや心理テストなどさまざまな知識や技術が使われます。日本臨床心理士資格認定協会では、専門業務は4種類とされているので、ひとつずつ見ていきましょう。
臨床心理査定
臨床心理査定ではテストや面接によって、心理状態を探っていく方法です。悩みや不安を抱えていることを、本人が自覚していないケースが多いので、悩みや不安を見つけることで、援助の方向性を決めていきます。
心理状態を客観的に見なければならないので、自然な状態でありのままの言動を見るだけでなく、一定の条件のもとで観察することもあります。たとえば、子どもの場合は、グループで遊んでいる状況での観察があげられます。
臨床心理面接
臨床心理面接は、クライアントの心をサポートする重要なプロセスであり、臨床心理士の中心的な活動です。
心理面接は心理カウンセリングとも呼ばれ、その方法はクライアントの年齢や状況によって、行動療法や集団心理療法などさまざまな方法から選びます。
心理面接ではクライエントを主体とした対話を中心に、自分自身を理解し、肯定できるための支援が必要です。
もっとも適している面接方法を判断するのも、臨床心理士の技量にかかっています。
臨床心理的地域援助
臨床心理的地域援助は、地域の人々が健康的な心を保つための支援をする活動で、主に自治体や学校などでおこなわれます。
行政や医療機関、教育機関などさまざまな分野の専門家と連携してサポートをすることも多いです。
日常生活のなかでのコミュニティだけでなく、災害が起きた地域での心理的ケアを支援することも、臨床心理士の重要な仕事といえるでしょう。
調査や研究
心の問題を解決する方法はさまざまで、どのような手法がよいのかを考える際、過去の事例は重要な参考資料です。
過去の多くの臨床心理的研究や、調査結果があるからこそ、参考にすることで適切な判断ができます。
臨床心理士自身の実践と研究から得たものを、学会発表や論文執筆、著作活動などによって、ほかの臨床心理士や他職種に発信する人もいます。
調査や研究活動は、臨床心理の技術や知識を伝えるだけでなく、自分自身の知識やスキルを固めるためにも重要です。
臨床心理士の活躍分野
臨床心理士は、教育や医療、福祉などから、産業や司法まで、幅広い分野で活躍できる職業です。
それぞれの分野ごとに、臨床心理士がどのように活躍できるのかを解説します。
教育
幼稚園や学校の教育機関では、一般的に保育カウンセラーやスクールカウンセラーと呼ばれます。
保育カウンセラーは、育児や発達に関する相談が多いです。スクールカウンセラーはいじめや不登校、友人関係などの悩みはもちろん、自傷行為や精神疾患など幅広い対応が求められます。
カウンセリングは生徒や教員、保護者が対象で、問題によっては関係者の話し合いの場を設けることも臨床心理士の仕事に含まれています。
医療
医療機関では、主に精神科や心療内科、小児科です。
医師からの依頼によって、心理査定や心理療法をおこなう他に、看護師と連携も求められます。
しかし、2018年から医療分野で心理面のケアをおこなうのは、臨床心理士から公認心理師へと変わってきています。
臨床心理士の医療分野における活躍の場は、保健所や精神保健福祉センターが中心といえるでしょう。
保健所や精神保健福祉センターなどで臨床心理士は、精神保健福祉相談員として勤務します。
問題を抱えたクライアントと一緒に、解決策を見つけるのが主な業務です。
福祉
福祉の領域で多いのは、児童相談所や児童福祉施設です。
弱い立場の人に対する精神的フォローが主な仕事で、児童相談所では虐待に関する対応のほか、発達障害や療育手帳の判定や相談もあります。
児童福祉施設では、家族に対する支援が中心です。障害福祉施設では心理査定や心理面接をおこない、関係機関との連携や、家族の援助もおこないます。
そのほかにも、高齢者施設やDV被害に遭った女性を支援する施設なども、臨床心理士を必要としています。
高齢化に伴い、心に問題を抱える高齢者や家族も増えてきています。
福祉分野では、今後ますます臨床心理士の需要が高まると考えられ、将来性が期待できる分野といえるでしょう。
また、地方自治体の施設で勤務する臨床心理士は、公務員として採用されるのが一般的です。
産業
産業分野は、働く人のメンタルヘルスに関する領域です。
企業内で臨床心理士の仕事は、メンタルヘルスに特化した産業カウンセラーや、相談員があります。
近年では、メンタルヘルスについての世間の関心が高まっています。
臨床心理士をカウンセラーとして雇う、企業や組織が多くなってきました。メンタルの不調が原因で仕事を続けられなくなる人が増えてきていることから、産業分野での心の問題のケアは重要です。
臨床心理士は問題の解決だけにとどまらず、回復してからもアフターフォローが求められます。
企業内の相談室や健康管理センターのほかに、ハローワークや障がい者職業センターなども臨床心理士を雇うところが増えてきています。
司法
司法の分野にも臨床心理士の仕事があり、多くの場合は公務員として採用されます。家庭裁判所の調査官や、刑務所の処遇カウンセラーなど、事件を起こした人への心理査定や更生のための心理療法をおこないます。
犯罪に手を染めた少年や少女の教育ケアや、被害者とその家族のメンタルケアはもちろんですが、加害者の家族へのメンタルケアをおこなうこともあります。
刑事裁判のあとでおこなわれる、収監された受刑者に対するカウンセリングも大切な仕事です。
また、被告人の精神鑑定にも、臨床心理士が携わることもあります。
臨床心理士になるために必要な資格
臨床心理士に興味がある人は、どうすれば臨床心理士として仕事ができるのかが気になるところでしょう。資格が必要なのか、どのように資格を取得するのかなど、臨床心理士になる方法をくわしく解説します。
資格の概要
臨床心理士として仕事をするには、日本臨床心理士資格認定協会が実施する資格試験に合格しなければなりません。
臨床心理士試験は、例年7~8月に受験を申し込みます。一次試験は10月中旬に筆記試験、二次試験は11月中旬に口述面接試験がおこなわれ、合格発表は12月下旬頃です。試験会場は一次試験、二次試験ともに東京のみです。
一次試験は、マークシート形式と論文形式の問題があります。マークシート形式の問題数は100問で、試験時間は2時間30分です。論文形式の問題では、心理臨床に関するテーマで、1,001~1,200字の範囲で論文を書きます。
試験時間は1時間30分です。
試験に合格するだけでは、臨床心理士として仕事ができません。
定められた期日までに、資格認定証書の交付手続きを完了する必要があります。
手続きが完了すると、臨床心理士の資格認定証書と資格登録証明書であるIDカードが送付されます。
資格試験を受験するための要件
臨床心理士の資格試験を受験するには、以下の表のように、7とおりの要件があります。いずれかに該当していなければなりません。
1 | 日本臨床心理士資格認定協会が認定する第1種指定大学院を修了し、受験資格取得のための所定条件を充足している |
---|---|
2 | 日本臨床心理士資格認定協会が認定する第1種指定大学院を修了し、修了後1年以上の心理臨床経験を含む受験資格取得のための所定条件を充足している |
3 | 日本臨床心理士資格認定協会が認定する第2種指定大学院を修了し、修了後1年以上の心理臨床経験を含む受験資格取得のための所定条件を充足している |
4 | 日本臨床心理士資格認定協会が認定する第2種指定大学院を修了し、修了後2年以上の心理臨床経験を含む受験資格取得のための所定条件を充足している |
5 | 学校教育法に基づく大学院で、臨床心理学またはそれに準ずる心理臨床に関する分野を専攻する専門職学位課程を修了している |
6 | 諸外国で上記1または3のいずれかと同等以上の教育歴および日本国内における2年以上の心理臨床経験を有する |
7 | 医師免許取得者で、取得後2年以上の心理臨床経験を有する |
合格率と難易度
臨床心理士試験は、決して簡単な試験ではありません。過去4年間の臨床心理士試験の受験者数・合格者数・合格率は、以下の表を参照してください。
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
---|---|---|---|
2019年(令和1年) | 2,133 | 1,337 | 62.7% |
2020年(令和2年) | 1,789 | 1,148 | 64.2% |
2021年(令和3年) | 1,804 | 1,179 | 65.4% |
2022年(令和4年) | 1,810 | 1,173 | 64.8% |
出典:日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士資格取得者の推移」
専門性が高い試験なので、しっかりとした準備が必要です。また、1次試験だけでなく、2次試験の面接も、対策を立てておきましょう。
臨床心理士の仕事の理解に役立つ心理カウンセリング関連資格
大学院の終了や実務経験などが必要な臨床心理士を、今からめざすのは難しいと考える人は決して少なくないでしょう。臨床心理士でなくても、悩みや困りごとなど心に寄り添う心理学系の仕事があります。心理学やカウンセリングに関する資格を紹介しましょう。
メンタル士心理カウンセラー
「メンタル士心理カウンセラー」は、悩みを抱えている人にカウンセリングをおこない、心理学の知識で解決へと導くスペシャリストです。資格試験は、心理学の基礎となる以下の知識があることを証明するものです。
・心理学の基礎知識
・ストレスによる症状
・症状別の治療方法
試験に合格するには、カウンセラーとして活動できるレベルに達していると認定されなければなりません。カウンセリングには、悩みを聞きだす力のほかに、問題を分析する能力も求められます。
受験資格:特になし
受験料:1万円(税込)
受験申請:インターネットからの申し込み
受験方法:在宅受験・期日までに解答用紙を提出
合格基準:70%以上の評価
試験日程:2ヶ月に1回ペースで開催(年度による)
福祉心理カウンセラー
「福祉心理カウンセラー」は福祉の現場において、福祉や心理学の基礎的な知識でそれぞれの症状に合わせて改善する仕事です。資格を取得すると、以下の知識や技能があることが証明されます。
・発達・認知・言語・行動の障害
・精神疾患の知識
・介護の知識
・施設利用者の家族へのサポート
・リハビリテーションと自立支援
・在宅介護での自立支援のあり方
資格試験に合格するには、福祉に関する知識はもちろん、心理学の理論を理解していて、カウンセリングができることを認定されなければなりません。
受験資格:特になし
受験料:1万円(税込)
受験申請:インターネットからの申し込み
受験方法:在宅受験
合格基準:70%以上の評価
試験日程:2ヶ月に1回ペースで開催(年度による)
チャイルド心理カウンセラー
「チャイルド心理カウンセラー」とは、子供のしぐさや行動などから心を読み取り、子供の発達に応じた対応や、子供が抱く悩みや相談に対応する仕事です。資格を取得すると、子どもの心理に関する知識や、発達段階に合わせたカウンセリングなど、以下のようなスキルが証明されます。
・子どもの話の聞き方
・家族構成が子どもの成長にあたえる影響とその違い
・子どもの性格やしぐさ
・赤ちゃんが泣く心理
・思春期心性
・思春期危機
・友だちをめぐる問題
試験に合格するには、子どもの心の発達や、人格形成にかかわる知識が必要です。また、ひとりひとりに適切なアドバイスができることも求められます。
受験資格:特になし
受験料:1万円(税込)
受験申請:インターネットからの申し込み
受験方法:在宅受験
合格基準:70%以上の評価
試験日程:2ヶ月に1回ペースで開催(年度による)
まとめ
心のケアに携わる臨床心理士は、心理学の専門家です。国家資格ではありませんが、専門性のある職業としての位置づけが確立しています。
民間のカウンセラーだけでなく、公務員として司法の領域に携わることも可能です。
臨床心理士の資格は、大学院修了や実務経験が求められるなど、簡単に取得できるものではありません。
社会人や主婦の方で転職やスキルアップとして考えているなら、ハードルが高い資格といえるでしょう。
また臨床心理士は初心者にとっては難易度の高い資格です。
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